Falling Angel / 一皮だけの裏表

 

 

悪魔のバイブルと忌み嫌われ、全米で不買運動さえおこった原作はウィリアム・ヒョーツバーグの小説「堕ちる天使」、2トンもの牛の血を使ったとされる問題のラスト・シーンは1987年公開当時話題となった。

 

 生臭い路地裏に迷い込み、獣の臓物の匂いを嗅ぎながらそれに手を入れて、その中にあるものを見つけ出す・・・やり切れないのに、" 闇の主 " は恍惚の股間を握りしめ悦に浸る。

一度見て頭が痛くなり、二度目はおぞましさに " 恐怖 " の意味を知り、三度目は悪魔の快楽を毛穴に感じて堕ちる主人公に自分を重ねてしまう。

当時、絶頂のその中にいたミッキー・ローク主演、ロバート・デニーロ、シャーロット・ランプリング共演の「エンゼル・ハート」です。

この映画は今の今にスライドさせても、恐ろしくリアリティに富みそして合致します。

 

 映像も斬新で例のエレベーターのシーンに代表される光と暗さを巧みに使う演出は自己の内の他人の存在を示唆しており、観るものに得体のしれないモノへの手招きのように嫌な胎動を呼び起こさせるに十分です。

なんといってもミッキー・ロークが最高でした。ヨレヨレとしたズボンを無造作に履きながら、咥えるタバコは今にも手の指を焼くかのようにしわがれる。

シャーロット・ランプリング演じるマーガレットの胸から抉り出された心臓、ロバート・デニーロ扮するルイス・サイファー(ルシファー)のゆで卵、三者三様全てが豊かな暗示性に満ちていて映画が終了しても胸騒ぎのような微動が止まらずにいるでしょう。

このブログで紹介しているブラッド・ピットの「セブン/7」の先駆けともいえるこのオカルティック・ホラーな味付けは、時代にも色褪せることがなくミッキー・ロークの演技はどう過小してもアカデミー賞ものであると個人的には思えます。

 無駄なシーン・無駄な演出がなくユラユラと夢遊病者のように揺られながら気がつけば断崖絶壁に佇み生唾を呑み込ませる、そんなスリルを味わせてくれます。

ストーリーは、しがない探偵事務所にルイス・サイファー(ロバート・デ・ニーロ)が、「ジョニーという歌手と契約を結んだのだが、行方知らずなので探し出して連れて来て欲しい」 と依頼を持ってくる。中堅クラスの探偵ハリー・エンゼルは乗り気がしないのですが、大金に目がくらみ、依頼を引き受けてしまう、ジョニーを追いジョニーと関わった医者、ギター弾き、占い師などを尋ねていくのだが、大した情報は得られず、人物像も分かってこない、そして、ハリーが出会った人達が次々と何者かに殺されていき・・・

 

 悪夢を転がり落ちて行くかのようなエンゼルは、狂気の自分を思い知り心の鑑に映し出された己に雨とも血ともしれぬ涙を浮かべる。 だらしない探偵を演じ、オンナには色仕掛け・男には狂気の暴力でせまるミッキー・ロークの " 侵された眼光 " が、鈍く観るものを射ぬいてきます。

 

じわじわとコレクター・アイテムに近づきつつあるこの映画のDVDは多少割高な価格にも、迷わずコレクションに加えて損のない傑作だと思います。